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あゆみ

2018.03.01

演劇祭10周年。そして、これからも

鳥の劇場の設立から10年を経た2016年、劇場として使ってきた旧鹿野小学校体育館に大規模な改修工事が行われました。演出や舞台装置の効果が最大限に生かせる舞台が整い、2017年に迎えた鳥の演劇祭10周年。今では鹿野のまちの行事ともいえる存在です。

第20回BeSeTo演劇祭の鳥取公演と併催で開かれた2013年の「鳥の演劇祭6」。1994年から毎年開催されているBeSeTo演劇祭は、日本、中国、韓国の3カ国が持ち回りで行うフェスティバルで、北京(Beijing)、ソウル(Seoul)、東京(Tokyo)の頭文字を取ってBeSeToの名称が付けられました。第20回は「交流から共存へ」をテーマに、東京、富山、鳥取に3カ国の演劇人が集まり、日中韓の俳優が出演する「セールスマンの死」(A.ミラー作)などが鳥の劇場で上演されました。

コミュニティで作られた作品の出演者として初めて舞台に登場したのは、鳥の劇場が取り組むアウトリーチ活動を通して出会った鳥取聾学校中等部の生徒たち。練習を重ねて磨いてきた作品を大勢の観客の前で披露しました。

2014年の「鳥の演劇祭7」には、ニューヨーク、パリ、ソウル、東京、宮崎から気鋭の演劇人が招かれ、鹿野町内の5つの劇場に分かれて作品を上演しました。

さらに「障がいを知り、共に生きる」をテーマに開催された「あいサポート・アートとっとりフェスタ」や、「芸術が身近にある日常」をつくり出す「藝住」の取り組みを鳥取県が発信する「鳥取藝住祭2014」と連携し、芸術のジャンル、国籍、年齢、障がいの有無を超えて、フェスティバルの輪が大きく広がりました。

2015年の「鳥の演劇祭8」で上演されたのは、フランス、フィンランド、イスラエル、インドネシア、韓国、そして日本の東京から招かれたアーティストによる国際色豊かな演目。演劇、サーカス、人形劇、ダンスと、幅広いジャンルの作品が集められました。鳥の劇場の知名度が上がるにつれて外国人来場者の数も年々増え、鳥の演劇祭は、演劇の上演にとどまらない国際アートフェスティバルと理解されるようになりました。

戦後70年の節目だったこの年の演劇祭は「戦争や歴史について考え、今を相対化すること」をテーマの一つとして掲げ、2人の論客によるトークイベントや、戦争を扱った戯曲のリーディング上演を行い、参加者は楽しみながら深く考える時間を過ごしました。

2015年に鳥の演劇祭の初舞台に挑んだのは、障がいのある人とない人が一緒に演じる劇団「じゆう劇場」です。鳥の劇場のプロデュースで2013年8月に発足し、翌2014年11月に開催された「あいサポート・アートとっとりフェスタ」のクライマックスイベントでは「三人姉妹」(A. チェーホフ作)を上演して大きな反響を呼びました。

演劇祭では、W.シェイクスピア原作の「ロミオとジュリエット」をもとに創作された「『ロミオとジュリエット』から生まれたもの」を好演し、再び観客たちの心を動かしました。

春から初夏にかけて、旧体育館の大規模な改修工事を終えて迎えた2016年の「鳥の演劇祭9」は、例年より遅い11月に規模を小さくして開かれました。9月に第23回BeSeTo演劇祭が鳥取を中心に開催され、鳥の劇場でも公演が行われたことが理由でしたが、プログラム・ディレクターを務める中島諒人さんは、これを好機と捉えます。海外の劇団を招聘せず、大阪や沖縄から思いとエネルギーのある参加作品を選び、鳥の劇場が演出・出演する作品には、写真家のセルフドキュメンタリー演劇やリーディング上演、野外上演など、ほかでは観られないオリジナリティあふれる作品をそろえました。

日韓の中高生のグループが、それぞれの作品を二本立て上演する新たな試みに加え、「劇作家松井周と台本を3日で書いて、ちょっと演じてみよう」と題した公募企画にも挑戦。地域・地方をしっかりと見つめ、真正面から向き合った演劇祭として、2008年からの継続開催の成果を示しました。

2017年の「鳥の演劇祭10」で、ついに演劇祭10周年! 「劇場は、ことばとからだを使ってイメージをつくり、みなで見えないものを見る、聞こえない音を聞く場」と中島さんが言うように、これまで積み上げてきた演劇祭での実績や、鹿野の地域と築いてきた深いつながりを振り返り、舞台演劇の素晴らしさや演劇祭の意味を改めて考えるプログラムが用意されました。

アメリカからは、オリジナルの音楽と人形を使って観客を巻き込みながら劇世界をつくり出すメイン州の若いグループと、2014年の初招聘で大絶賛を受け、再来日したTBTBが上演。障がいを持つプロのアーティストを支えるニューヨーク唯一のオフブロードウェイ劇団TBTBが、同じニューヨークを拠点にするダンスカンパニーとのコラボレーションを披露し、再び会場を沸かせました。

このほか、フランス、東京、神戸から招いた個性派集団によるパワフルで記憶に残る演目の数々をはじめ、鳥取のコミュニティで生まれ育ったダンスグループ「とりっとダンス」や、「じゆう劇場」も自信作を上演。

演劇祭でひそかな人気を誇る「鹿野タイムスリップツアー」の今回の主役は、学校の先生だったマサオさん(86歳)。昭和5年生まれのマサオさんが生きてきた時代の日本、鳥取、鹿野を俳優が演じるセミドキュメンタリー作品です。舞台となる鹿野町内各所を俳優とともに移動しながら、観客たちは何十年も前の空気や風、風景を感じながら町を巡りました。

鹿野町を訪れる人をおもてなししたのは、恒例となった「週末だけのまちのみせ」や、リニューアルした「鳥のカフェ」、場所を移して広くなった「セレクトショップ」。最寄駅からのタクシー定額運賃や、テントで泊まれるナイトイベント、英語字幕など、新しい試みも好評で、9月8日(金)~24日(日)の土・日曜、祝日には、市外・県外はもちろん、海外からの演劇ファンや観光客で鹿野のまちは活気に包まれました。2008年から続く鳥の演劇祭が鹿野町にしっかりと根を下ろし、地域住民の「祭」として育っていると実感できた瞬間だったに違いありません。

しかし、立ち止まっている時間はありません。鳥の演劇祭運営委員会のメンバーや鳥の劇場のスタッフたちは、演劇祭のこれからに思いを巡らせながら、2018年9月に開催される「鳥の演劇祭11」の準備を始めています。

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