あゆみ
2018.03.13
演劇の価値を最大化できる“人口最少県”
東京で劇団を主宰していた演出家の中島諒人さんが、演劇活動の新たな拠点に選んだのは、日本一人口の少ない、生まれ故郷の鳥取県でした。
NPO法人鳥の劇場の代表理事で、劇団の舞台監督を務める演出家の中島諒人さん。東京大学法学部在学中から演劇活動を始め、大学卒業後は東京を拠点に劇団を立ち上げます。2003年には利賀演出家コンクールで最優秀演出家賞を受賞し、翌2004年から1年半、静岡県舞台芸術センターに所属。この頃から、地域と演劇の関わりについて考えるようになったといいます。
鳥の劇場の構想が鮮明になったのは、中島さんが40歳のとき。当時の日本では、東京にも成熟した演劇文化は根づいておらず、世代を超えて地域住民が観劇に訪れるヨーロッパの劇場をうらやましく思っていました。
しかし、多くの観客を集めるヨーロッパの劇場でも、チケット収入だけで演劇を上演することは難しいのが現状です。日本との大きな違いは、演劇に高い公共性を認めるヨーロッパでは、公的資金によって劇場や舞台芸術が守られていることです。
「田舎でやるほうが、むしろ価値を出せるのではないか。演劇の価値を最大化できる場所を考えたとき、頭に浮かんできたのは、生まれ育った鳥取県でした」
中島さんの中には、人口の少ない地方都市であれば、演劇を地域社会の新たな文化に育てることができ、地域に必要とされる劇団として、公的資金を得やすいのではとの考えがあったようです。鳥取県の人口は56万4390人(2018年1月1日現在)。全国で最も人口の少ない“人口最少県”です。「二番目より、おもしろい」と鳥取県に戻ることを決め、県内で演劇活動の新たな拠点を探し始めます。