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『友達』鳥取公演に向けて

今週5月17日から19日に鳥の劇場で、そして5月30日・31日は米子市文化ホールで、特別な公演を行います。作品は、今年生誕百周年となる安部公房の代表作『友達』。「砂の女」「箱男」「他人の顔」など小説家としての安部公房をご存知の方は多いかもしれません。が、安部氏は自分の劇団を持ち、演劇活動も旺盛に展開していたのです。『友達』は、彼の戯曲の中でも、世界的に最も知られた作品だと思います。

 

特別な公演と書きました。もちろん私たちにとってどの舞台も特別に愛しているものです。今回の「特別さ」は、静岡県舞台芸術センター(SPAC)との共同製作ということです。SPACは今までも鳥の演劇祭で作品を招いたり、所属の俳優に出演してもらったり、さまざまに交流をしてきました。私自身、初代芸術総監督の鈴木忠志さんの時代に一年半所属したことがあり、現監督の宮城さんとももう三十年を越える交流があります。SPACは財団による運営、鳥の劇場は民間、施設や予算の規模も全然違うのですが重要な共通点があります。それは劇場が劇団を持ち、独自の創作を中心にして演劇の価値を追求し、普及や啓発を行おうとしている点です。商業的な価値ばかりが重視されがちな今の演劇界の中で、演劇はなぜ人にとって大切なのか、地方での演劇活動が未来づくりにどのような貢献ができるか、そのような点を大切にしながら、両劇場とも創作と運営を行っているのです。

今回の『友達』にはSPACの中心俳優五人が出演しています。阿部一徳さんは、何度も鳥の劇場に来てくれていて、ご存知の方・ファンも多いと思います。たきいみきさんは2017年の『NIPPON CHA・CHA・CHA』、三島景太さんは昨年の『帽子屋さんのお茶の会』、大道無門優也さんは昨年の『三人姉妹』に、それぞれ出てもらいました。武石守正さんは今回初です。それぞれに経験を重ねた素晴らしい俳優です。鳥の劇場からは、中川玲奈、高橋等、小菅紘史、安田茉耶、後藤詩織が出演します。
蛇足ですが、テレビや映像に出ているかどうかで、俳優の価値を判断する傾向がありますが、それはまったく間違っています。舞台上で明晰にセリフを聞かせ、体を美しく見せ、体からクリアで強いエネルギーを出し、観客とも呼吸を合わせていくという仕事は、舞台俳優独特のもので、才能、そして鍛錬と経験によってしか獲得できないものです。

先月終わり4月27日・28日、静岡市日本平のSPACの活動拠点・舞台芸術公園の野外劇場「有度」でこの公演の初演を行いました。2回公演とも定数四百の客席はほぼ満席、作家が黒い喜劇と称した通り多くの笑いが客席にあふれました。二つの劇団の俳優が混じっているが、どの人がどっちの劇団ということではなく、一人ひとりの個性を際立てつつ、同時に全体のチームプレイ、アンサンブルを大事にしていこうと考えて演出したのですが、まさにそのような感想を多くもらいました。

最後になぜ『友達』か。この作品には集団と個人の関係が描かれています。人間は生物としては弱い生き物ですから、集団でなければ生きていけない。集団で生活することで命を長らえ、やがて文明を獲得し今の繁栄を得ました。しかし繁栄の中、人間は一人で生きたい、何をし、何をしないかを、集団によって決められるのではなく、自分で決めたいと感じるようになってきました。ある程度発達した社会が存在することで生存が確保され、初めて自由は可能になるのですが、ともかく現在の大衆化した社会では、多くの人が自由を夢見、都市に人が流れ込みます。日本でも1960年代以降顕著になったその状況は今も変わりません。人間にとって集団は不可欠でありつつ、自由を抑圧する邪魔物でもある。その二律背反が何を生むかを深掘りしたのがこの作品です。
都市で暮らす結婚間近の青年の部屋に、全く知らない家族が突然訪れ、そのまま住みつき、部屋・家財・給料、婚約者までもを奪う。侵入者たちは、都市生活は孤独だから「友達」として家族のつながりに取り込まれることが、人の幸福だと語る。青年はそれを拒み、家族と徹底的に争う。というのが骨格で、普通に考えると、青年の生活を侵略する家族は、一枚岩の軍隊のような人たちかと思ってしまいます。けれど、さすが安部公房と思わせるのは、家族成員一人ひとりに、自由と集団の間の葛藤を持たせていること。それが劇世界を複雑にし豊かにしています。そして今回の出演俳優の多様さと力量、そして全体のチームワークが、その複雑さと豊かさをぐんぐん引き出すのです。

鳥の劇場で3回、米子市文化ホールで2回の公演です。これほどの濃厚な座組はちょっと他では見られません。ぜひお運びください。

 

鳥の劇場芸術監督 中島諒人

『Friends』鳥取・米子公演詳細情報はこちら

 


【鳥取公演】

主催:特定非営利活動法人鳥の劇場

助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会 令和6年度 鳥取県 優れた演劇の創造・発信等による芸術振興及び地域活性化事業補助金

後援:鳥取県 鳥取市 鳥取県教育委員会 鳥取市教育委員会 NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会 鳥取大学地域学部附属芸術文化センター 新日本海新聞社 株式会社ふるさと鹿野

【米子公演】

主催:鳥の劇場運営委員会

共催:鳥取県

助成:令和6年度 鳥取県 鳥の劇場運営委員会補助金活用事業

 

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