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2023年10月20日更新

Q. 作品をいつ「完成」としますか? 〜大岡淳さん、ロブ・ウルビナーティさん、永山智行さんに聞いてみました

応募期間もいよいよ折り返し。これから作品に取り掛かってもまだ十分に時間はありますが、作り始めると、気になってくるのがその「終わらせ方」。
今回は事務局に寄せられた以下の質問を、大岡淳さん、ロブ・ウルビナーティさん、永山智行さんの3人に聞いてみました。

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Q.
作り手(戯曲家、俳優)の方々は、作品を仕上げるとき、どういった心持ちで「完成!」とするのでしょうか。自分の書いたもの・演じるキャラクターを、これは抜群に面白い、と思って終わらせる・区切りをつけるものでしょうか?推敲をしていると迷宮に入り、時間をおいて見直してみてもなかなか終わりにたどり着けないきらいがあります。
つまらない、と思うものは表にしないものかと思うのですが、気になっていることでした。

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A.
大岡淳さん(演出家・劇作家・批評家)の場合

私の場合、演出家を兼任しているか、していないかによって、「完成」のさせ方が変わります。兼任している場合、俳優に発話してもらうことによって、その戯曲のアラが見えてきますので、修正すべき点は修正して本番を迎えます。すなわち、公演の本番初日が、戯曲にとっての「完成」の日だということになります。
問題は、自分で演出する予定がなく、単に読み物として、あるいは、他の演出家に手渡すことを前提として、戯曲を書く場合です。自分の手元でひとまずは「完成」させなければならないわけでして、この場合、自分が登場人物各人になりかわって、セリフを音読しながら、辻褄が合っていない箇所(プロットと人物の設定や心情が適切に対応しているか、人物の中に変な矛盾が生じていないか)、取材が足りていない箇所(憶測だけで書いて、検証を欠いているところが残っていないか)、入れる意味のない箇所(人物同士の単なる雑談であっても、その雑談の内容が、登場人物を知る手がかりになりえているか)等を洗い出し、これでもう隙はない、と言い切れるところに至れば「完成」です。
ただ、後者の場合も、ふつうは発注サイドから締切が提示されているわけでして、結局、その締切によって「完成」を強いられる、という感じではありますね。


A.
ロブ・ウルビナーティさん(劇作家・クイーンズシアター[アメリカ・NY])の場合

この質問に明確な答えはありません。
大体の場合、劇作家が満足したらその作品は完成となると言えますが、いつまでも満足できない劇作家もいます。
作品は完璧である必要はありませんーーそんな作品はほぼ存在しないのですから。
あなたへのアドバイスとしては、締め切りまで推敲を繰り返し続けてみる、ということかと思います。
もしくは新しい作品を書き始めてみる、というのもありでしょう。

もう一つ考えることとして、私の講座映像の中でもお話ししていますが、作品の最初と最後で、登場人物たちがどこか別の場所に到達している必要があります。これはもちろん物理的な話ではありません。彼らが作品の冒頭で欲していたものが、それを手にするためにさまざまな方法を試した末に彼らを動かし、彼らを変えているべきです。もしそれが達成されていないのなら、作品はまだ完成していないのかもしれません。もし登場人物たちに全く変化がないなら、その作品は完成していない可能性が高いです。

(以下、原文)
There's no real answer to this question.
Usually, I would say the play is done when the writer is satisfied with it,
but some writers are never satisfied. The play doesn't have to be perfect - few plays are.
I think this person should keep working on the play until the deadline,
then submit it.
Or they should start a new one and see how that goes.

Something else to consider: I mentioned in my video that the characters needed to be someplace different at the end of the play than at the beginning. Not someplace physically different, of course, but what they wanted at the beginning of the play, after various tactics to achieve it, should move them, so they're not exactly the same. If that's accomplished, the play may be done. If the characters hasn't changed at all, it's likely that the play is not done.


A.
永山智行さん(演出家・劇作家・劇団こふく劇場代表)の場合

どこで完成とするかは、おそらく作家の数だけその基準があるのだと思います。
わたしの場合を考えてみると、身も蓋もないのですが、それはおそらく締め切りの日付ということになるかと思います。
ただ、小説家と違い劇作家は、書いたことばが直接読者に届くわけではなく、俳優や演出、舞台美術や照明、音響などみなさんに立ち上げてもらうわけですので、その過程を見ることで、不要なせりふや、足りないせりふに気づかされることが多いのです。
結果として、一旦、俳優や演出家に台本を渡したあとも、ちょこちょことせりふを直し続けることになります。
逆に、俳優や演出、スタッフのみなさんが、自分ではそんなに面白いと思わなかったシーンを、ほんとうに素敵なシーンにしてくれることもあります。
その意味では、どこまでいっても完成しないのが、戯曲のことばなのかもしれません。あ、わたしにとっては、ですが。
そうしてわたしは、締め切りの日付に、「あとはお願いします。えいやっ!」と提出することになるのです。

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みんなが書く戯曲のコンテストでは、11月5日(日)に大岡淳さんが皆さんからの創作の質問に答えるオンラインワークショップ「短編戯曲の創作について相談してみよう」を開催します。
参加方法および質問募集の詳細は以下をご覧ください。

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