経済関係のアナリストが、感染症による死者数と経済的停滞による自殺者数を比較していた。この比較はどんな意味をもつのか。ここでちょっと考えたい、この状況で文化はどう機能するのか。
文化は人間が人間らしく生きる営みそのもの。人間と動物を分かつのは、美とか幸福とか成長という価値的なものを大事にするかどうか。人間を分断し、孤独や憎悪や不安に追い込むこの状況だからこそ、芸術や文化が必要
社会が要請する距離が社会的距離。感染症のリスクのある状況では、人と人はちょっと離れていなければならない。距離の侵犯が感染を招くのと同じで、「個」の殻(シェル)が犯されると我々は不安と恐怖を感じる。が、ときにそれは我々を新しい可能性や成長、人生の新しい見晴らしにつないでくれる。侵犯ともなりうる危険な距離を人間的距離と呼ぼう。人間的距離は数値では示しづらい。エネルギーを持った人間が集い、非日常のエネルギーを生み出す演劇の現場は、社会的距離に相対化されながら、人間的距離とは何かを強烈に考えさせる。
鳥の演劇祭13は、「半開きの殻(シェル)・人間的距離を考えよう」をキーワードに、野外空間を生かしながら、上演とワークショップを二本柱にして行う。例年より会場も演目も少ない特殊な形だが、この状況の中で「安全安心」を基本に「楽しさ」と「考える」を最大限に追求する。今こそ、人間の精神的営みや相互の関わり合いが、いかにかけがえのないものであるかを確認したい。
鳥の演劇祭芸術監督 中島諒人